鹿月秋の晴耕雨読

鹿月秋(from-origin design)の、他愛もない、そして、くだらない日常を無駄な長文で綴っています。
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雪見酒は屋上で
仕事が終わると外は一面の銀世界へと変わっていた。

雪を鳴らしながら、恐る恐る自転車をこぎ出す。


なんとか行けそうだ。

見たところ10センチほどの積雪。


織田氏が店先のベンチに座っていた。

こんばんは。
今宵は素敵な雪見酒ができそうだ、
どうだ、屋上へ行かないか?

僕たちは、ひとしきり雪への賛辞を述べ合い、
屋上で落ち合う約束をして一旦わかれた。


部屋で湯を沸かし、ポットに入れ替え、
折り畳みのイスを二脚とタバコを持って
エレベーターの「R」のボタンを押して
屋上へ上がる。

「この雪見日和だ、きっと屋上には誰かいるに違いない」
と織田氏。

「美女なら良いですね」
と僕が答えて二人でヘラヘラと笑った。


威勢良く屋上のドアを開けると
そこには色白の美女の代わりに
処女のように誰にも踏みつけられていない
真っ白の雪の絨毯が広がっていた。

雪はもう降っていない。


柵の近くにイスを並べながら、
「雪見窓を産み出した我らの祖先が見たら
さぞかし悲しむだろう、
私も悲しい、
こんな素敵な夜に誰もこの屋上で
雪見をしないなんて!」
と織田氏が嘆いた。


雪があると、あんまり寒く感じないですね、
と僕はセーター一枚の姿で織田氏に
ホットウィスキーを差し出した。

うん、確かにそうだな、
と言いながら、さかんに彼は
右足を上げている。

「不思議だ。
右足には、こんなにも雪がつくのに、
左足にはまったくつかない。
物理的な説明ができんよ、君」
と何やら難しいことを言いながら、
にこやかにホットウィスキーを口に運んでいる。

しばらくすると、酔いの前に、僕の歯が、
カタカタと音を奏ではじめた。


雪が街の音を吸い込んだせいで、
僕の歯音が屋上にポツンと響いている。

「今宵はこれくらいにしておくか」
と織田氏が言い、僕らはイスを畳みはじめた。



こんなに素敵な雪見酒は、
おそらく僕は初めての体験だったように思う。


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ぽた (2012/03/04 5:41 PM)
やぁ、それは素敵な夜だったんだね。
椅子をたたむ時の音さえも、すぅっと吸い込んでしまいそな雪の夜。









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